ALC外壁の特徴と塗装について解説
ALC外壁とは?
ALC外壁とは、Autoclaved Lightweight aerated Concreteの略で安全性の高い軽量気泡コンクリート素材を使用して作られたパネルを組み合わせた外壁のことです。
1963年に日本で販売が開始されました。ALCパネルは、外壁だけでなく間仕切り、屋根、床などにも使用されています。
主原料は、珪石、セメント、生石灰、アルミ粉末の発泡剤です。高温高圧蒸気養生製法により製造され、軽量素材でありながら耐久性・耐熱性に優れ、防音効果もあります。パネルの内部には、補強材が組み込まれているため、強度も兼ね備えています。
ALC外壁の特徴や種類
他の外壁材と比較した場合の特徴
外壁材(外壁用建材)はデザインを重視した素材や機能性を重視した素材など様々です。
ここでは、一般的に外壁よく使われる素材を4つ取り上げ、特徴や塗装、張り替えの費用を比較します。
ALC
地震に強く、耐久性・耐熱性にも優れ、デザインの自由度も高いALC外壁。内部の気泡が音を吸収するため建物の防音性を上げることも出来ます。重量もコンクリートの4分の1でとても軽量です。
夏は涼しく、冬は暖かい、季節の気温変化の影響を受けにくい外壁です。
定期的に外壁塗装のメンテナンスを行えば耐用年数は約50年と非常に長く、全体の張り替え費用の相場は一般的な戸建てで約150万円~250万程度と言われています。
モルタル
高級感や風合いが好まれるモルタルは従来の建物に多く採用されてきました。
材料はセメントと水と砂を混ぜ合わせたもので、コンクリートに使われる砂利は含まれません。重量があり、防火・防音の性能が高いのも特徴です。
モルタルは職人によって、完成度が異なる点から高い技術が求められます。外壁材の中では最も費用が安いと言われています。
耐用年数は約30年前後で、全体の塗装費用の相場は一般的な戸建てで約70万円~120万程度と言われています。
サイディング
サイディングは窯業系、金属系、樹脂系、木質系に分かれ、工場生産で製造される板材です。
モルタルのように手作業で広範囲を塗り上げる手間もなく、タイルのように一枚ずつ貼り合わせることもないので短期間で仕上げることができます。初期費用面も比較的安価と言えるでしょう。
様々な原料を組み合わせることで木目風やタイル風、レンガ風などを再現し、デザイン性の高い外壁材が販売されています。セメントに繊維質の素材を混ぜて板状にした窯業系が一番使用されており、次い重量が軽い金属製サイディングが人気です。
デメリットは継ぎ目があるためコーキング部分が劣化すると隙間ができ、雨水が侵入してしまいます。
耐用年数は約15年~30年前後で、全体の張り替え費用の相場は一般的な戸建てで約60万~120万円程度と言われています。
タイル
タイル外壁は、石や土などの自然素材を高温で焼き固めて作られているので、傷がつきにくく、色褪せや劣化が少ないのが特徴です。
色も豊富で建物の見た目をおしゃれに仕上げたい人に好まれます。サイディング同様継ぎ目が発生するので、コーキング部分の修繕をこまめに行う必要があります。
耐用年数は約40年前後で、全体の張り替え費用の相場は一般的な相場は戸建てで160万円~300円程度と言われています。
ALCパネルの種類は?
ALCパネルはJIS規格に適合した製品で、一般パネル(平らなパネル)とコーナーパネル(L字型パネル)の2種類があります。
厚さも分けられていて厚形パネル、薄形パネルがあります。鉄筋コンクリート造などの耐火建築物に使用される厚形パネルは厚さ75mm以上です。
鉄骨、木造に使用される薄形パネルは厚さ35mm以上75mm未満で、厚さ50mmは鉄骨に、厚さ35・37mmは木造に使用されます。
これらの規格に加え、表面加工の有無により平パネルと意匠パネルに分けられます。平パネルは模様が入っていないパネルの事です。
意匠パネルは意匠性を高めたパネルでデザイン加工が施され、各メーカにより特徴があります。
ALCパネルの相場はメーカーや規格により変動しますが、材料費のみで見ると5,500円/㎡~高いものは16,000円/㎡まであります。
10年~15年の周期で定期的にメンテナンスを行えば、耐用年数は約50年と言われていて外壁材の中でも断トツです。ビルやショッピングセンターの外壁にもよく使用されていますが、東京スカイツリーに採用されていることでも有名です。
補強材と補強筋
ALCパネル内には、ALCパネルを補強する棒鋼、鉄線、溶接金網、メタルラス(金網)などが配置されています。
補強筋とは補強材のうち、棒鋼、鉄線など線状のものを指します。これらの素材はALCパネルの強度を高め耐震性・安全性にも貢献しています。
外壁の施工方法「湿式」と「乾式」って?
外壁の施工法には「湿式(しっしき)」と「乾式(かんしき)」の2種類があります。
「湿式」は漆喰やモルタル、土壁などの塗り壁材を施工する現場で作り、ハケやコテで下地材の上から塗り上げる方法です。
「乾式」は工場で製造された一定サイズの板を必要な分だけ用意し、現場で組み立て下地材の上に外壁に貼り付けていく方法です。
ALCは後者の「乾式」にあたり、パネルを貼ることで外壁が完成します。湿式工法と乾式工法では工事期間の長さが大きく違います。
湿式は天候や気温の影響も受けやすく、乾式工法よりも多く日数がかかります。乾式はそれらの影響をほとんど受けずにスケジュール通りに進められるため、計画が立てやすいです。
ALC外壁のメリット
耐火性に優れている
ALCパネルは不燃材料で、耐火構造などの仕様や認定を受けています。
無機質の原材料から作られ、万が一火災になった際に有毒なガスや煙がでることがありません。
軽量で遮音性が高い
ALCパネルの主原料である珪石やセメントはとても軽量な素材です。施工の際に取り扱いが容易で、工期が短く済みます。
また、内部の気泡が音を吸収するため、軽量でありながら高い遮音性を備えています。
断熱性が高い
高温高圧蒸気養生という製法を採用しており、この製法によってパネル内部に微細な気泡が発生し、パネルの密度が低くなるため、熱の伝導が低下し、耐火性を高めています。
通常のコンクリートに比べて約10倍も断熱性があると言われています。
耐久性が高い
ALCパネルの内部には鉄筋やスチール製の補強材が組み込まれており、これらの補強材がパネルの強度をより高めています。
腐食や変形がなく、外観が長期間維持されます。
地震に強い
重い外壁材を使用した壁では、地震時の振動に対応できず、破損や倒壊する恐れがありますが、軽量で柔軟性があるALCパネルは、揺れに対して、変形やひび割れを最小限に抑えることができます。
防災シェルターの外壁などにも使用されることがあります。
デザインの自由度が高い
ALCパネルには表面にデザイン加工を施した意匠パネルが各メーカーにあります。
ラインナップも豊富で、塗装することによりさまざまなカラーリングにできるため自由度の高い外壁材と言えます。
ALC外壁のデメリット
継ぎ目が多い
パネルを組み合わせて完成させるため、継ぎ目が発生します。
シーリング(コーキング)材でしっかりカバーし、定期的にメンテナンスをする必要があります。
防水性が低い
ALCパネルそのものには防水性がなく、水を吸いやすい性質があります。
そのため、表面に防水加工を施す必要があります。
初期コストが高い
非常に優れた外壁材であることから、他の外壁材に比べて、初期費用が高くなります。
しかし、長期的な視点で見ればALCパネルの耐用年数は約50年と長く、建物自体のの寿命を延ばすことができます。
現場での加工作業が少なく施工期間も短縮できます。
ALCパネルの取付け工事施工手順(外壁の場合)
ALCパネルの取付け構法は、法改正や環境への配慮、地震調査結果などを反映させ、随時見直しが行われています。
こちらで扱う施工手順は平成25年版を参考にしました。外壁には「縦壁ロッキング構法」と「横壁アンカー構法」があります。
参考:取り付け構法|ALC協会
縦壁ロッキング構法
躯体(鉄骨)の層間変形(地震や強風などの影響を受けた際に起こる変形)に対して各パネルごとに微小に回転して追従する構法です。CDR構法とも呼ばれます。
鉄骨造(S造)、鉄筋コンクリート造(RC造)、鉄筋鉄骨コンクリート造(SRC造)などにおいて、厚形パネルを用いて施工されます。
各メーカーにより、取り付け時の方法や取付金具、呼び名が異なることがあります。この構法は、外壁を対象していますが、間仕切壁に用いることも出来る構法です。
横壁アンカー構法
以前は横壁ボルト止め構法と呼ばれていましたが、改定に伴い横壁アンカー構法となりました。
躯体(鉄骨)の層間変形(地震や強風などの影響を受けた際に起こる変形)に対して、上下のパネルが相互にずれ合って追従する構法です。パネルに過大な負担がかからず、追従性が高いとされています。
各メーカーにより、取り付け時の方法や取付金具、呼び名が異なることがあります。
材料搬入
ALCパネルを現場へ搬入します。軽量とはいえ数が増えれば重量物です。搬入は慎重に行う必要があります。金具類はハンドパレットなどで運搬します。
ALCパネルは場所によってはクレーン車などで仮置き場まで搬入します。ビルやマンションなどの施工が多い為、高所作業になります。
下地鋼材取付
ALCパネルと躯体(鉄骨)の間には、定規アングルなどの下地鋼材取付を構造体力上支障のないように設置します。
取付下地はALCパネルに加わる外からの力やパネルの重量を構造躯体に伝達するとても重要な役割があるので、正確に取り付ける必要があります。
施工現場で溶接により取り付けます。パネルが安定して取り付けられるようにするための大切な工程です。窓や出入り口などの開口部周りは補強鋼材も設けます。
ALCパネル準備
搬入されたパネルに、金具取付用の孔をドリルで開けていきます。パネルは工場で成型、カットされていますが、現場の状況に応じてはその場でカットすることもできます。
カットしたパネルには面取り加工を施します。パネルに金物を設置し、U型台車を使って運びます。
ALCパネル取付
縦壁ロッキング構法ではALCパネルと下地鋼材に溶接された取付金物がボルトを介して微小に回転可能なように取り付ける構法のため細かいルールが設けられています。
手作業で位置合わせをして溶接していきます。溶接部分には錆止めを塗装します。
シーリング
外壁材と外壁材の間の隙間(目地)を埋めたり、欠けなどを補修するためにシーリング材を使います。
ALCパネル同士のシーリング(二面接着)には低モジュラス(モジュラスは圧縮などのひずみなどが加わった際に元の形状に戻ろうとすること。低モジュラスは戻ろうとする力が弱く動きに追従します。)をしようしないと、パネル破損の原因になります。充填することで目地に水密性、気密性を確保できます。
目地を定期的にメンテナンス(打ち増し、打ち替え工事)することで、外壁を長持ちさせることができます。
なお、シーリング施工を行う前にはプライマー塗布(下塗り塗料)を行います。
ALC外壁施工時の仕上げ注意点
ALC外壁は軽量で断熱性、耐久性、耐火性などに優れていますが、吸水性のある素材なので、正しい仕上げや防水施工が必要です。
仕上げが不適切な施工だった場合、外壁では漏水やALCパネルの耐久性低下、寒冷地では凍害の原因にもなります。
縦壁ロッキング構法と横壁アンカー構法により、仕上げ塗材の相性が異なるため施工前に十分に注意が必要です。
シーリング材の塗装
ALCパネルの取付け構法や目地の方向によって、シーリング材を選ぶ必要があります。
一般的にはシーリング材の表面に仕上げ塗材で仕上げを行います。ALCパネルは吸水性があるため、パネルが雨で湿った状態でシーリング材の充填を行うと、接着不良起こす可能性が高くなります。
ALCパネルが十分に乾燥している上でシーリング材の充填や塗装を行いましょう。
仕上げ塗材仕上げ
仕上げ塗材は、吹付材や塗り壁などとも言われます。ペンキのような平坦な仕上がりではなく、立体的で造形性のある模様で仕上げられます。(下地となる)ALCパネルを保護して外壁の耐久性を向上させます。
仕上げ塗材で仕上げる際は「建築用下地調整塗材」(吹付け工事)による下地調整材を用いた下地処理が必要とされています。シーリング材上に適さない下地調整材(セメント系下地調整材)があるため、場所により適宜対応が必要です。
詳細については、塗料メーカーやシーリング材メーカーのサイトで確認しましょう。
モルタル塗り仕上げ
ALCパネルにモルタル塗りで仕上げを行うことは、ひび割れや剥離が発生し、防水性が劣るため好ましくありません。
石張り仕上げ、タイル貼り仕上げ
石張り仕上げは見た目に高級感が出るため人気の仕上げですが、重量が大きく、ALCパネル自体の表面強度が低い為避けましょう。
タイル貼りもお洒落に仕上がりますが、年数がたち劣化するとタイルが剥がれて落下の危険性もあります。
成形板仕上げ
重量の大きいものは使用できませんが、鋼板などの成形板を(ALCパネルにボルト止めされている)胴縁に取り付けることができます。
ALC外壁を長持ちさせるためには?
ALC外壁の特徴や弱点を理解して必要に応じて点検、メンテナンスを行うことが長持ちの秘訣です。
定期的な補修が必須な理由
ALC外壁は防水性が低い建材の為、それを補うために、適切な防水塗装が不可欠です。
塗装は経年劣化や土地環境により通常の耐用年数よりも早く剥がれる可能性があります。
ひび割れが小さいうちに補修しておけば、出費も抑えることができます。
補修が必要なタイミング
補修が必要なタイミングは環境によっても差がありますが、ALC外壁の目安は耐用年数が近い、目視で色褪せやひび割れが確認できる、目地のシーリング材のちぎれや剥がれ、新築時の仕上げにタイル貼りを採用していた場合は、タイルの欠落などが補修に必要なタイミングと言えるでしょう。一般的には約10年~15年周期と言われていますが、早めの点検をお勧めします。
補修方法&費用
ALC外壁の修繕方法には「再塗装」「目地補修」「ひび割れ補修」などがあります。
事前に足場設置→汚れやコケカビなどを可能な限り高圧洗浄で取り除く→ケレン作業(高圧洗浄で落ちなかった汚れや古い塗膜を剥がす)を行います。再塗装にかかる費用は使用する塗料や面積により上下しますが、約60万~200万円です。
目地補修は打ち増し、打ち替え工事があり、打ち増しは劣化した目地の上にそのままシージング材を充填すること、打ち替えは既存のシーリング材を取り除いて新たに充填することです。
一般的な30坪の戸建てで打ち増しは約10万円~15万円、打ち替えは約15万円~20万円程度と言われています。ひび割れ補修は限定的な補修の場合は1回5万円程度ですが、足場が必要な高所になると別途足場代が費用に加わります。足場が必要な他の工事と組み合わせて行うことでお得になります。
外壁工事で助成金がもらえる?
高い省エネ性能への改修(建て替えを含む)や省エネ診断などに補助金が出る住宅エコリフォーム推進事業などが国や各自治体が行っている制度が存在します。ご自身が検討している工事内容がこれらに該当するかどうかなど施工前に相談することでお得に外壁工事を行える可能性があります。
まとめ
ALC外壁を管理が不十分のまま放置していると劣化を早めてしまいます。家の顔ともいえる外壁は目立ちやすい場所です。
適切なメンテナンスを定期的に行うことで、見た目も美しく保つことができ、建物の価値も維持できます。
初期費用が高くてもALCパネルを導入することで、メンテナンスコストの削減、施工期間の短縮、安全性の向上、省エネ効果など、長期的に見れば経済的なメリットが得られることが期待されます。
またリフォーム推進事業などの制度も活用してお得に工事が施工できる可能性もある為、事前に業者に相談してみましょう。